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水戸地方裁判所麻生支部 昭和54年(ワ)98号 判決

主文

一  原告に対し

1  被告小岩井邦廣は金一〇〇万円及びこれに対する昭和五四年六月五日から支払済みまで年六分の割合による金員

2  被告株式会社十文字組は金二〇〇万円及びこれに対する昭和五四年六月五日から支払済みまで年六分の割合による金員(金一〇〇万円とこれに対する昭和五四年六月五日から支払済みまで年六分の割合による金員の限度で相被告小岩井邦廣との連帯債務)

を支払え。

二  原告の被告小岩井邦廣に対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告小岩井邦廣の間においては、被告小岩井邦廣に生じた費用の二分の一を原告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告株式会社十文字組の間においては、全部被告株式会社十文字組の負担とする。

四  この判決の一項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは各自原告に対し、金二〇〇万円及びこれに対する昭和五四年六月五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決。

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二  当事者の主張

一  原告の請求原因

1  被告株式会社十文字組(以下被告十文字組又は被告会社という。)は、別紙手形目録記載の約束手形一通(以下本件手形という。)を振り出し交付した。

2  被告小岩井邦廣(以下被告小岩井という。)は、拒絶証言作成義務を免除のうえ、本件手形を原告に裏書譲渡した。

3  原告は、本件手形を支払期日に支払場所に支払のため呈示したが、取引なしとの理由により支払を拒絶された。

4  原告は本件手形を所持している。

5  よつて、原告は被告ら各自に対し、手形金二〇〇万円及びこれに対する支払期日から支払済みまで年六分の割合による利息の支払いを求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

(被告小岩井)

1 第1項の事実は不知。

2 第2項の事実中、被告小岩井が本件手形に第一裏書人として裏書した事実は認めるが、その余は不知。

3 第3、4項の事実も不知。

(被告十文字組)

1 第1項の事実は認める。ただし、支払期日、振出日欄は白地であつた。

2 第2ないし第4項の事実は不知。

三  被告らの抗弁

(被告小岩井)

1 被告小岩井は、被告十文字組から、「金融をうける都合上是非とも裏書をしてもらいたい。裏書をしてもらうについては絶対に迷惑をかけない。」旨懇請され、本件手形に裏書した。そして、被告十文字組は本件手形を訴外石崎松之介に預けて金策を依頼したところ、右石崎松之介は、これを奇貨として、原告より手形金を受領するや、これを被告十文字組に交付せず、着服横領してしまつた。石崎松之介は株式会社健康社の代表者であるが、原告も右会社の役員であり、しかも、原告と石崎とはいとこの関係にある。このような関係にある原告は、石崎が手形金を着服するのを知りつつ、これと共謀の上本件手形を割り引いたものである。

2 原被告は、いずれも被告十文字組の手形債務を保証するため裏書したのであるから、原被告は共同保証人の関係にあり、かつ、原被告間にはその負担部分につきなんらの特約もなかつた。従つて、仮に被告小岩井に本件手形金を支払うべき義務があるとしても、原告がその償還義務を履行したうえ、被告に対して請求し得べきものは、本件手形金の半額にすぎず、その余の請求は失当である。

(被告十文字組)

本件手形は、被告十文字組が資金不足に苦慮していたとき、訴外石崎松之介が手形を持つてくれば金策してくれるというので、被告小岩井の裏書をもつたうえで、被告十文字組が振り出し、右石崎松之介に預けたものである。ところが、石崎は、原告から受け取つた手形金を被告十文字組に渡さず、これを着服横領してしまつたので、同被告は石崎を警察に告訴した。そして、原告は石崎とはいとこの間柄にあるので、被告十文字組は、原告に本件訴訟を取り下げてもらうべく電話したところ、原告は、「本件訴訟が係属していることは知らなかつた。石崎松之介のために大変迷惑をかけて申し訳ない。至急訴訟の有無を確認して、十文字さんへ電話します。」と言つていたが、その後何の連絡もない。

四  抗弁に対する原告の認否

(被告小岩井の抗弁について)

1 第1項の事実は否認する。

2 第2項の事実中、原告が本件手形に裏書したのは保証のためであつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

手形行為の共同署名者の責任は合同責任であるから、被告小岩井は、本件手形金全額につき償還義務を負うものである。

(被告十文字組の抗弁について)

争う。

第三 証拠(省略)

理由

一  請求原因について

1  被告会社代表者本人尋問の結果及びこれにより全部真正に成立したものと認められる甲第一号証の一(同号証の成立は、原告と被告十文字組間においては全部争いがなく、原告と被告小岩井間においては、受取人、振出日、支払期日の各欄を除く部分につき争いがない。)によれば、請求原因第1項の事実が認められ、右認定に反する証拠はない(同事実は原告と被告十文字組間において争いがない。)。

2  第一裏書人欄の成立は当事者間に争いがなく、その余の部分は、証人石崎松之介の証言と原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一号証の二並びに被告小岩井及び原告の各本人尋問の結果によれば、請求原因第2項の事実が認められ、右認定に反する証拠はない(同事実中、被告小岩井が本件手形に第一裏書人として裏書した事実は、原告と同被告間において争いがない。)。

3  成立に争いのない甲第一号証の三によると、本件手形は、支払期日に支払場所に支払のため呈示されたが、取引なしとの理由により支払を拒絶されたことが認められ、これに反する証拠はない。

4  原告本人尋問の結果によれば、請求原因第4項の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  被告小岩井の抗弁について

1  前記認定の事実、証人石崎松之介の証言、原告、被告小岩井被告会社代表者の各本人尋問の結果によれば、被告十文字組は、昭和五四年三月頃資金繰りに窮し、訴外石崎松之介に委任して手形割引による融資をうけるため、本件手形を振り出したこと、ところで、同被告振出しの手形には信用がなかつたので、同被告の依頼により、被告小岩井が保証のため、第一裏書人として本件手形に裏書きしたこと、そこで、石崎松之介は、本件手形を訴外菊池義男のところに持参して、同人から融資をうけようとしたが、菊池は、被告小岩井のほかにもう一名の保証を要求したため、石崎は原告に頼んで、保証のため第二裏書人として本件手形に裏書きしてもらつたこと、そうして、石崎は、菊池に本件手形を割り引いてもらい、その割引金一七〇万円を受領したこと、ところが、石崎は、この金の一部を被告十文字組の債権者(中島組等)に対する債務の支払いに充て、他は石崎の被告十文字組に対する債権と相殺したことなどを理由に、被告十文字組にはこれを渡さなかったため、同被告は、結局本件手形の割引金を現実には全く受領できなかつたこと、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠は存しない。まず被告小岩井は、石崎松之介は本件手形金一七〇万円を着服横領したものであり、原告もこれに加担して、石崎が着服横領することを知りつつ本件手形に裏書したものである旨主張する。果して、石崎が右手形金を着服横領したといえるかどうかの点はともかく、右金員が現実に被告十文字組に交付されなかつたことは前記認定のとおりであるけれども、原告が、本件手形に裏書するに際し、本件手形の割引金が被告十文字組に交付されないことを知つていたものと認めるに足りる的確な証拠はない。すなわち、証人石崎松之介の証言及び原告本人尋問の結果によると、原告と石崎は共に株式会社健康社の役員をしており、しかもいとこ同志の間柄にあることが認められるが、右のような関係にあるからといつて原告の悪意を推認することはできないし、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。よつて、被告小岩井の抗弁第1項は採用することができない。

2  次に、被告小岩井の抗弁第2項について検討するに、被告小岩井と原告とが、それぞれ被告十文字組の債務を保証するため本件手形に裏書したことは前記認定のとおりである。このように、第一裏書人と第二裏書人が、振出人の手形債務を共同で保証する目的のもとにそれぞれ手形に裏書した場合に(いわゆる隠れたる手形保証)、第二裏書人が償還義務を履行して手形を受け戻したうえ、第一裏書人に償還請求したときは、第一裏書人は、共同保証による手形行為であることを抗弁として主張することができ、そして、共同保証人間に負担部分につき特約がない場合には、その負担割合は原則として平等であり、従つて、第一裏書人は手形金の二分の一の限度でしか償還義務を負わないものと解すべきである。本件において、前出甲第一号証の二及び原告本人尋問の結果によると、原告は、前記菊池義男に対し償還義務を履行して本件手形を受け戻したうえ、前者たる被告小岩井に償還請求していることが明らかなところ、前記のとおり、被告小岩井は被告十文字組の依頼により、また原告は石崎松之介の依頼により、それぞれ別個に保証のため裏書したものであつて、被告小岩井と原告間にその負担部分につき何らかの特約がなされたことを認めるに足りる証拠はないのであるから、両名の共同保証人としての負担割合は相等しく、従つて、被告小岩井は、本件手形額面の半額一〇〇万円とこれに対する満期の日から年六分の割合による利息の支払の限度で原告に対し償還義務を負い、これを超える部分についての支払は免れるものというべきである。原告は、手形行為の共同署名者の責任は合同責任であるから、被告小岩井は本件手形金全額につき償還義務を負うものである旨主張する。確かに、通常の裏書であれば、その担保的効力により(手形法一五条一項)、裏書人は被裏書人その他後者全員に対して手形金全額の支払義務を負うものであるが、第一、第二裏書人のいずれもが振出人の手形債務を保証する趣旨で裏書した場合には、それは手形行為を為す際の原因関係に属することであるから、第二裏書人からの償還請求に対し、第一裏書人は、共同保証人としての負担部分の限度でしか支払義務を負わないことを、原因関係上の人的抗弁として主張できるものと解すべきことは前述したとおりであつて、原告の右主張は採用できない。

三 被告十文字組の抗弁について

被告十文字組の抗弁は、要するに、本件手形の割引金は石崎松之介に着服横領されてしまつて、同被告の手に渡つていないから、原告の本訴請求には応じられない旨の主張と解される。しかし、前記の事実からすれば、石崎松之介は被告十文字組の代理人として本件割引金を受領したことが明らかであるから、仮に石崎がこれを横領した事実があつたとしても、それは同被告と石崎との内部問題にすぎず、本件手形の権利者に対する関係では、手形金の支払を拒む理由とはなし得ないものといわなければならない。同被告の抗弁は主張自体失当である。

四 結論

以上の次第で、原告の被告小岩井に対する請求は、本件手形額面の半額一〇〇万円とこれに対する満期の日から支払済みまで年六分の割合による利息の支払を求める限度において正当であるから、これを認容し、同被告に対するその余の請求を失当として棄却し、原告の被告十文字組に対する請求は、全部正当として認容し(金一〇〇万円とこれに対する昭和五四年六月五日から支払済みまで年六分の割合による金員の限度で、相被告小岩井との連帯債務)、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

別紙

手形目録

金額 金二〇〇万円

支払期日 昭和五四年六月五日

支払地 茨城県鹿島郡鹿島町

支払場所 佐原信用金庫鹿島支店

振出日 昭和五四年四月四日

振出地 茨城県鹿島郡鹿島町

振出人 株式会社十文字組

受取人 小岩井邦廣

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